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連邦法人税務申告における不確実な税務ポジションの開示について
米国内国歳入庁(IRS)は、2010年1月に、連邦法人税務申告の添付書類による不確実な税務ポジション(Uncertain Tax PositionまたはUTP)の開示を検討していると発表しました[1]。2010年4月には、この添付書類となるSchedule UTPの草案を発表しました[2]。これに対して多くの反対の意見が寄せられましたが、IRSは予定通り2010年の連邦税務申告書から実施するようです。
このSchedule UTPが実施されますと、在米日系企業の税務申告や税効果会計にも少なからず影響を与えると予想されます。
そこで、この記事はSchedule UTPの概要、背景にある問題点、そして開示による予想される影響について、現時点までにIRSが発表した内容を元に解説いたします。最終的な内容は若干変更される可能性があります。
Schedule UTPの概要
開示対象者
このSchedule UTPの対象となるのは、1000万ドル以上の資産[3]を有する株式会社[4]で、”Audited Financial Statement”により連邦法人所得税の不確実な税務ポジションについて引当金を計上した[5]場合 です。
Schedule UTPの草案では、パートナーシップ、Limited Liability Company (連邦所得税法上、パートナーシップもしくは単一所有者の一部と見なされるもの)、非営利法人、S Corporation(株式会社で株主課税選択(S Election)をしたもの)、信託は対象とされていませんが、今後開示対象が広がる可能性もあります。
日本企業の米国子会社は?
日本企業の米国子会社は、米国で上場していなくても、昨年より不確実な税務ポジションの会計が適用されていますので、Schedule UTPの対象となる場合があります。
レビューの場合は?
Schedule UTP インストラクション草案には、Audited Financial Statementとは、独立した第三者が、米国会計原則(US GAAP)、国際会計基準(IFRS)[6]、または連邦所得税に関する引当の規定のある他の会計原則に基づいて述べた意見書の付いた財務諸表とあります。米国の場合、監査だけでなく、それよりも保証基準の低いレビューやAgreed-Upon Procedureも対象となると考えられます。一方、意見書の付かないCompilationは対象となりません。
不確定税務ポジションとは?
まず、税務ポジションの定義ですが、Schedule UTP インストラクション草案には、税務申告において採る立場であり、もしその立場が認められない場合、税務申告の欄で調整が発生するもの、とあります。
米国会計原則法典ASC 740-10-20には、税務ポジションとは、過去または将来の税務申告における立場で現在または繰延税金資産・負債の評価に反映されているもの、とあります。さらに、税務ポジションは、所得税の永久削減、所得税の繰延、繰延税金資産の認識用総額の変化をもたらす場合がある、としています。例として、(a) 税務申告をするか否かの判断、(b)税務管轄間で所得を配分または移転すること、(c)所得の分類や税務申告で課税所得を除外するという判断、(d)取引形態、法人形態、その他のポジションで、税務申告上非課税とする判断、を挙げています。
一方、不確定税務ポジションの定義は、Schedule UTPのインストラクション草案にも米国会計原則法典にも見つかりません。米国会計原則法典ASC 740-10-55-101は、全ての税務ポジションにASC 740-10の不確定税務ポジションの認識と評価のルールが該当する、としています。では全ての税務ポジションが不確定税務ポジションか、というと、そうではなく、ASC 740-10-55-101によりますと、明確かつ疑問の余地の無い税法により経営者がその税務ポジションについて高い確信を持っている場合、Highly Certain Tax Position(HCTP)として不確定税務ポジションの定義から除外されます[7]。まとめますと、不確定税務ポジションとは、全ての税務ポジションのうち、HTCP等の例外を除いたものと考えられます。
税務訴訟をすれば勝訴する[8]であろう、もしくは、税務当局が実務上更正しないであろう、という理由で引当をしない場合がありますが、Schedule UTPでは、これらの税務ポジションについても開示が必要になります。
税務ポジションの単位
ASC 740-10-55-87には、複数の試験研究プロジェクトの研究費の税額控除について、税務ポジションを、プロジェクト単位にするのか、全てのプロジェクトをまとめて1つとするのか、という例があります。そのうち一つのプロジェクトが、不確定税務ポジションの50%超の認識の基準を満たせないため、プロジェクト単位にすると、そのプロジェクトの研究費の税額控除の効果が会計上実現できない、一方で、全てのプロジェクトをまとめれば基準を満たし実現できる、という事例です。ASC 740-10-25-13には、税務申告作成方法や税務調査において予想される税務当局の調査手法を含む、全ての証拠を考慮して、個々の事実や状況により経営者が税務ポジションの単位を判断すること、とあります。
州税や外国税は?
州や外国の法人税も、ASC 740-10の不確定税務ポジションの認識と評価のルールが該当しますが、Schedule UTPの対象外となっています。但し、IRSのSchedule UTPに倣ってこれに類する開示の要求を検討している州が多く見られます[9]。
引当金計上と税務申告のタイミング
税務申告の60日以前に引当金を計上した場合はその税務申告で開示し、それ以降に計上した場合は、翌年の税務申告で開示することになります。
関連会社や外国法人による開示
50%超の所有関係にある関連会社(Corporation)が連結財務諸表でSchedule UTPの対象となる納税者の税務ポジションについて引当を計上している場合、納税者に開示義務が発生します。米国法人(Corporation)がその海外子会社の税務ポジションについて引当をしている場合だけでなく、外国法人(連邦所得税法上Corporationと見なされるもの)が米国関連会社の税務ポジションについて国際会計基準や外国の会計基準により引当をしている場合も対象になると考えられます。
外国法人が連邦外国法人所得申告書(Form 1120-F)を提出している場合で、添付書類Schedule Lの資産が1000万ドル以上ですと、Schedule UTPによる開示義務が発生する場合があります。外国法人が米国にパートナーシップ(複数所有のLLCを含む)や恒久的施設を持たない場合でも、米国にある資産が1000万ドル以上の場合[10]、もしくは、全世界資産を選択してその資産が1000万ドル以上の場合は、現在のSchedule UTP草案では、開示対象者となる場合があります。
日本企業が米国子会社の税務ポジションについて引当金を計上するということは現時点では考えにくいのですが、今後国際会計基準を採用することで、このような場合が出てくるでしょう。
開示内容
現在のSchedule UTPの草案では、各税務ポジションについて、以下の開示を要求しています。
1 関連する主な歳入法典条項
2 一時的差異をもたらすものか、永久的差異をもたらすものか
3 パススルー法人(パートナーシップやLLC)から配分される税務項目に関連する税務ポジションの場合、パススルー法人の連邦雇用者番号
4 IRSの実務的な理由で更正されないであろうという理由で引当をしない場合その事実
5 最大更正額
6 税務ポジションの年度(過年度の税務ポジションについてのみ)
7 税務ポジションの簡単な記述
移転価格税制や資産評価に関連する不確実な税務ポジションについては、最大更正額の開示は必要ありません。
開始時期
Schedule UTPは、2010年の申告から適用されます。経過措置として、2009年以前の税務申告における税務ポジションについては、財務諸表に引当があっても、Schedule UTPによる開示は必要ありません。
罰則規定
IRSは新たな罰則規定の立法化を検討中ということです。納税者がSchedule UTPで引当を開示しまたは虚偽の開示をすることで税務調査を免れたり、税務調査で問題点の指摘を免れたり、という事態を防ぐことが目的と思われます。
[1] IRS Announcement 2010-09. リンクhttp://www.irs.gov/pub/irs-irbs/irb10-09.pdf
[2] リンク:フォームhttp://www.irs.gov/pub/irs-utl/df1120.pdf インストラクション http://www.irs.gov/pub/irs-utl/schedule_utp_draft_instructions__2_.pdf
[3] Schedule Lの総資産額が1000万ドル($10 million)を超える納税者ということになります。
[4] 米国の財務省規則§ 301.7701-1から§ 301.7701-3によりCorporationと見なされる外国法人(日本の株式会社を含む)も対象となる場合があります。この他にForm 1120 Lを提出する米国生命保険会、Form 1120 PCを提出する米国損害保険会社も対象になります。
[5] または、納税者の一定の関連会社が納税者の税務ポジションについて計上した場合も含まれます。
[6] 国際会計基準への移行を想定しています。
[7] ルールとしては、極めて例外的な場合のみASC 740-10の不確定税務ポジションの認識と評価をしなくていい、と解釈されますが、実務では、多くの税務ポジションが何等かの理由でASC 740-10の不確定税務ポジションの認識と評価を免れているようです。
[8] HTCPであるから勝訴する、という場合と、不確定であるが勝訴する、という場合があると思いますが、インストラクション草案では明らかでありません。但し、HTCPであるから勝訴する、という場合を含めますと、ほとんどの法人納税者(C Corporation)が開示の対象となり、大企業の場合、膨大なリストとなってしまうでしょう。
[9] 州税においてアグレッシブなタックスプランニングを行って引当を計上している企業は多く、州のSchedule UTPは影響が大きいと思われます。州の非常に厳しい事業活動(Nexus)認定基準に反してその州で税務申告をしない(という税務ポジションをとっている)場合、どうやってその税務ポジションを開示させるか、という課題があります。
[10] 例としては、米国支店の活動が準備的または補助的な性格の活動に限定されており、租税条約により恒久的施設が免除される場合があります。
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